入れ歯を使用せずに放置してしまうと、どのような悪影響があるのですか?
◆「入れ歯を使わなくても 食事が食べられる…」 は大間違い
「奥歯の入れ歯を作ったけど違和感があって食事が美味しくない。」
「歯が無くなったところでは噛めないけど反対の奥歯や前歯で都合なく食べられる。」
「入れ歯使って食べた方が かえってご飯が食べにくい。」
などの理由で入れ歯を作らなかったり、作ってもなかなか馴染めないなどの理由で使用を中断してしまった…など抜いたままの状態でそのままにしてしまう患者さんをよく見かけます。
しかし、永久歯において、親知らず以外の歯で抜けたままにしておいて良い場合はほとんどありません。 想像以上に色々なところに多くの影響をおよぼしてしまうのです。
【 審美面(見た目)の影響 】
●見た目が悪くなる
歯は口元、そして人に与える印象はとても大きく、歯が抜けたままですと他人からの印象が悪くなってしまいます。普段はあまり人の歯を意識して見ない人であっても、相手のお口に歯がない場所があると気になるものです。また、本人もそれを気にして、思いっきり笑ったり コミュニケーションを取りにくくなってしまいます。
●歯茎の土手が下がる
歯槽骨(歯を支えている骨)は、歯が無くなって刺激が加わらなくなると やせて、その幅と高さが徐々に減ってしまいます。 また、歯槽骨の空洞化も進んで弱くなってしまいます。
●顔の輪郭が変化
前歯が抜けた場合は口元がくぼんだ感じになったり シワができたりします。奥歯が抜けた場合であっても、頬・あごのラインが内側に寄って、顔の輪郭が変わってしまいます。また、歯が抜けて噛めなくなってしまうと、咬む力が衰えるて 顔の筋力が低下し、シワやたるみが増えやすくなって、老けた印象になってしまいます。
【 生活面での影響 】
●胃腸への負担
歯が抜けてしまうと うまく噛めなくなり、食物が細かくなる前に飲み込むようになってしまうため、胃や腸に負担がかかるようになります。また、しっかり噛めないことで唾液の量も減ってしまい、消化の妨げにもなります。
●発音に影響
歯がないと隙間から息が漏れて発音が不明瞭になり、コミュニケーションを取りにくくなってしまいます。
●脳への刺激が減少
咬むことで、脳に刺激が加わっていますが、抜歯をしたまま放置しているとことによって、この脳への刺激も減少してしまいます。だんだん認知症になりやすくなるともいわれています。
【 噛み合わせの影響 】
歯が抜けたところに歯を入れずに放置しておくと、歯がなくなって噛めなくなるだけでなく、その抜けてしまった歯の周りの歯並びが悪くなります。
●抜けた歯の隣の歯が傾いてくる(隣接歯の傾斜)
隣り合う歯が相互に力を掛け合うことによって、歯はその位置を保っています。抜けた歯の両隣の歯は、支えてくれる歯が無くなってしまい、歯が抜けた方向に傾いてしまいます(基本的には前の方に)。そのまま長期間、放置しておくとさらに隣の歯も同じように傾いてしまいます。歯と歯の間に隙間ができて、食べかすが挟まりやすくなってしまいます。その結果、むし歯や歯周病にかかりやすくなります。
●歯が伸びて出てくる(対合歯の挺出)
歯は噛む相手の歯、隣の歯があることによって一定の位置に保たれますが、それが無くなると移動します。つまり上下的に噛み合っていた歯は、噛み合わせる相手が無くなるので、徐々に伸び出てきます。これは歯の長さが長くなるのではなく、歯の周りの骨も一緒になって出てきています。そして、接触する歯がなければ、反対の歯茎まで伸びてくることもあるのです。長くなってしまった歯を元の位置に戻すことは困難な治療で、抜けてしまった歯のスペースを補うための人工の歯を入れる際にもとても難しい治療となってしまいます。
【 健康な歯への悪影響 】
●咬み合わせの不調和
歯を抜いたままにしてしまったことによって、反対の歯が伸びたり、隣の歯が傾いてきたりして、咬み合わせがズレてきます。
また、抜いてしまった場所はうまく咬むことが出来ないために、反対側の歯でばかり使うようになり(片側咬み)、反対側の歯に無理がかかり、反対側の歯もだめになってしまうことが良くあります。また、
かみ合わせのバランスが崩れてくることにより、顎関節症の危険が高まります。あごが痛む、口が大きく開けられない、あごを動かすと異音がするといった代表的な症状の他に、頭痛、首や肩・背中の痛み、腰痛、肩こりなど全身の様々な部位に症状が現れることもあります。
●虫歯や歯周病になる危険
歯を抜いたままにすると、周囲の歯が伸びてきたり 傾いてきたりして、歯間の隙間が広がり、食べ物が歯の隙間につまりやすくなったり、これまでは真っ直ぐ生えていて磨き易かった歯が、斜めに傾いた部分や、伸びた歯の部分は磨きにくくなり、プラーク(虫歯や歯周病の原因となる細菌の集合体)がたまりやすく、虫歯や歯周病になるリスクが高い口内環境になります。唾液の自浄作用の働きも弱くなるうえに、歯も動いて歯並びが悪くなって 歯磨き困難になる為、虫歯や口臭の危険も高まります。
【 治療の影響 】 治療費が増え治療期間が延びる
このように歯を抜いたまま放置しておくことで、様々な問題が起こります。 そして、重要なことは見た目が悪かったり噛みにくいなど、抜いたところだけの問題にとどまらず、反対の歯や両隣の歯などほかの歯にもトラブルが起こしたり、全身的にも影響を及ぼすようになるということです。悪くなってしまってからこの状況の治療改善をするときに非常に問題で、とび出た噛む相手の歯を削ったり、移動した歯は神経をとったりしないと治療できないことがあります。かなり大掛かりな治療が必要となり、治療費が増えたり治療期間が延びてしまいます。治療を難しくするだけでなく、治療後の歯のもちにも影響します(早くだめになりやすい)。
悪くなってから治療した場合、
「歯を抜いた後に放置せずに、すぐに対処していれば、こんな問題が起きなかったのに…」とあなたがそのような後悔やトラブルを抱えないためにも、インプラントでも、ブリッジでも、入れ歯でも何でも構いませんので、少なくとも、歯を抜いてしまった後は放置せずにしっかりと最後まで治療をするようにしてください。
【 治療の方法 】
歯が無い場所や、残っている歯の状態によって、治療方法は変わってきます。歯医者さんで診査していただき、よく相談した上で治療方法を決めるのがよいでしょう。
たとえば、
【左下の奥歯が2本が抜けてなくなった場合・・・】
【 治療法① インプラント 】
インプラント(人工歯根)療法は第二の永久歯とも呼ばれ、最近注目されている治療法です。健康保険の適応がありませんので自費治療となります。抜けてしまった部分の顎の骨に金属(チタン)でできた人工の歯根を埋め込み、その上に人工の歯を取り付ける治療法です。発育期には治療できません。自由診療となり、保険は使用できません。
【 治療法② ブリッジ 】
失った歯の両隣に残っている歯を削って冠を被せ、橋を架けるように連結した人工の歯で失った歯を補っていく方法です。後側にブリッジを支える歯が無いため、ブリッジで歯を入れることはできません。
【 治療法③ 義歯(入れ歯)】
残った歯にクラスプ(金属のバネ)を引っかけて、人工の歯と義歯床(人工の歯肉)を固定する「部分入れ歯」で失った歯を補っていく方法です。保険で治療を受ける場合は、取り外しのできる義歯(入れ歯)が唯一の治療方法となります。