空隙歯列(くうげきしれつ)は一般に「すきっ歯」と呼ばれる歯並びで、歯と歯の間があいている歯並びをいいます。空隙歯列の中でも前歯の中央の歯の間が空いている歯並びを、特に正中離開(median diastema)といいます。学校保健法で正中離開として不正咬合と判断される基準は、上の左右中切歯の間に6㎜以上の空隙(隙間)があるものとされています。
正中離開でも乳歯と永久歯の場合では事情が異なり、乳歯の時期のすきっ歯は発育空隙といい正常なものです。乳歯の時期に顎の成長に伴い 徐々に歯と歯の間にすきまができて、永久歯の生えるスペースを作り出しています。逆に隙間なく生えている乳歯列の場合は、永久歯が生えるスペースがなく、永久歯に生え変わったときに叢生の心配があります。このように乳歯の前歯の離開は大切なもので、このすきまがないほうが、将来困った問題になります。問題は、永久歯の前歯にすきま(正中離開)がある場合です。
▼ 正中離開の原因
■ 上唇小帯(スジ)の異常
上唇には上唇小帯(じょうしんしょうたい)と呼ばれるスジ(ヒダ)があり、この上唇小帯が中切歯と中切歯の間にまで伸びて入り込んでいたり、上唇小帯のスジの付着が強い場合(上唇小帯強直症)や肥大している場合と中切歯と中切歯がくっつかず正中離開を引き起こしてしまいます。
上唇小帯が永久歯の歯並びに影響する可能性がある場合は、時期を見て早めに切っておいた方が良いでしょう。通常の外来で行う簡単な小手術ですので入院などは不要です。
左(6歳):学校検診で上唇小帯異常の指摘を受け、切除しました。
右(9歳):検診で観察中です。隙間が減ってました。
犬歯の生え変わりで隙間が閉じることを期待しています。
■ 過剰歯
上唇小帯(じょうしんしょうたい)は普通なのに前歯が離れている場合は前歯と前歯の間に過剰歯と呼ばれる歯がある場合があります。中切歯の根の部分に過剰歯があるため中切歯が並ぶことができません。この過剰歯は中切歯と中切歯の間に生えていることもありますが、骨の中に埋まっていることもあります。この場合、歯科医院でレントゲンで確認します。
過剰歯の存在によって永久歯が生えにくい(永久歯の生える経路に過剰歯があるとき)や、永久歯の間に大きな隙間ができている(正中離開)場合には、時期をみて(早めに)抜歯することになります。過剰歯を適切な時期に抜歯することにより永久歯の歯並びへの影響を最小限にとどめるためです。過剰歯を取り除く為には、局所麻酔下にて小手術をして抜歯することになります。麻酔がしっかり効いていれば、それほど痛みはありません。エックス線で永久歯の動き(生え方)や過剰歯の位置や動きなどを定期的に観察して、お子さんの協力度などを見ながら抜歯の時期などを見計らってゆきます。
左(7歳):歯並びを気にして来院 埋伏歯が影響していたため抜歯しました。
右(10歳):矯正治療をおこない、反対咬合を含め前歯の歯並びを改善しました。
■ みにくいアヒルの子の時期 (ugly duckling stage)
6~8歳頃の、上あごの前歯が生え始めた頃では、前歯の間にすき間が空いている歯ならびでも心配いりません。通常はその後、両脇の2番目(側切歯)や3番目の永久歯(犬歯)が生えてくるにしたがい、徐々に押されて自然に隙間はなくなっていきますので、治療はせずに経過観察します。生理的な正中離開は時間と共にきれいになっていきます。みにくいアヒルの子は本当は白鳥だったというお話をオーバーラップさせて、この時期に見た目が悪くても後できれいに整うことがありますと言う歯科用語です。
永久歯がはえ揃ってきてもすき間がなくならない場合があり、そのような「すき間」は不正咬合と考えられます。
■ 咬み合わせ
咬み合わせが深い(過蓋咬合)ために、下の前歯が上の前歯を突き上げることによって正中離開になることがあります。この場合は、ただ単に隙間を閉じれば良いわけにはありゆきません。原因が咬み合わせにあるので、咬み合わせを治さないと再発する危険が高いのがこの正中離開の難しいところです。咬み合わせが原因になっている場合は、本格的な矯正治療が必要になることが多くなります。
空隙歯列弓(すきっ歯 正中離開)を放置することで、上下顎又は上顎の歯が過度に突出している場合が多く、口が閉じにくく、口腔内が常に乾燥し虫歯や歯周炎を起こすことが多くなってしまいます。成人の場合は、特に歯周病をより悪化する場合が多く注意が必要です。
■ 歯周病による空隙歯列弓(成人の場合)
年齢が経つにつれて歯周病の問題が生じた場合、臼歯(奥歯)の骨が弱くなり噛み合わせが深くなることで、下顎前歯に上顎前突が突き出されることがあります。この場合、前歯の歯に隙間ができてしまいます。前歯に問題があると見られがちですが、原因は弱くなった臼歯骨の場合が多いのでご注意ください。歯周病治療、予防に努める必要があります。同様に奥歯の歯を抜いたまま放置していたり、義歯が入れていても長年使用して義歯が磨り減ったままになっても、咬み合せが深くなって前歯に影響ができてきますので、奥歯の噛み合せをしっかりさせて、定期的に歯科医院でケアする事が大切です。
■ その他の原因
・不良習癖(歯並び、咬み合わせに悪影響を及ぼす癖:咬唇癖、吸唇癖、吸指癖(指しゃぶり)、爪噛み,もの噛みなどが考えられます。)不良習癖がある場合は、早期に取り除くことが大事です。悪習癖がある場合は、本人、ご家族の協力が大切になります。
・側切歯の先天欠如、または大きさが小さく(矮小歯)すき間が余っている
・顎と歯の大きさが不調和(顎の大きさに対して歯が小さい)である
・乳歯の残根が残っている
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▼ 正中離開の対応
まず何が原因を診査し、それらの原因に対しての処置を行います。
子供の場合は、上唇小帯(スジ)の異常や過剰歯はタイミングを見て早いうちに除去することにより、歯並びへの影響を最小限にすることができます。また、悪習癖が原因と疑われる場合も、骨格に影響が出る前に癖を直す必要があります。必要に応じて、矯正処置などを検討します。大きなムシ歯になっていない限り、成長期に大きく被せて治すのは避けたほうが良いでしょう。
成人の場合は正中離開の原因や程度、歯並び全体のバランスで、対応が異なります。成人の場合も、歯と歯の間に歯が埋まっている場合は抜歯を行なうなど原因の除去を行います。見た目を良くするには、上記の原因を考慮した上で、必要に応じて、歯科矯正治療を行ったりセラミックの歯を貼りつけたりかぶせることによって形を整えます。あるいはもっと簡単に、樹脂(レジン)を盛り足すことにより解決することもあります。ただし樹脂ははずれやすかったり、時間が経つとすり減ったり変色したりするのが難点です。
【症例】 コンポジットレジンで回復
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正中離開は歯並びの異常のひとつで、隙間が大きいと空気が漏れて発音障害になる場合もありますが、日常生活に支障がなく放っておいても将来的に問題がない場合や、本人が自分の個性だと考えて気にならない場合などは、特に治療はせず経過をみてゆきます。しかし、隙間ができた原因によっては放置することにより将来問題を生じてきたり、改善するのが困難になってしまうこともあります。かかりつけの歯科医院にご相談して、適切なアドバイスうけることをお勧めします。
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